野田聖二

戦前と戦後の大震災の事例をみてわかることは、震災により景気が一時的にダメージを受けても、それによって景気が震災直後から累積(スパイラル)的に悪化していくようなことはなく、むしろ復興需要に絡む在庫投資が景気を加速させる方向に作用する、ということです。 このことは、在庫循環モデルのシミュレーションからも確かめることができます。震災のショックで需要もしくは生産が一時的に落ち込むと、それが復元していく過程で在庫投資が急増して景気が加速し、景気循環の振幅が激しくなるのです。 このような需要もしくは供給の一時的なショックが景気の回復局面で発生すると、過去2回の大震災の時のように、景気の水準は一時的に落ち込むものの、それによって回復基調が途切れてしまうわけではなく、むしろその反動で景気が加速して、場合によってはそれが景気循環のピークの到来を早めることにもなります。 過去2回の大震災の事例と在庫循環のメカニズムとから、今回の東日本大震災が景気に与える影響もあらかた予想できるのではないかと思います。 結論から言えば、震災の影響による一時的なショックにより、生産などの経済の水準は一時的に落ち込みますが、景気の回復基調がそれによって途切れるわけではなく、むしろ落ち込んだ水準から元の水準に戻っていく過程で景気が加速していく可能性がある、ということです。